研究内容

森瀬研究室では現在、以下の3つの研究課題を中心に研究を進めています。

① 腎臓内の非硫酸化型HNK-1糖鎖と腎機能との関連について
不可逆的な腎機能障害の進行は、慢性腎臓病に至ります。したがってその進行を抑制する分子機構の解明や、腎機能障害を早期に検出できるマーカーの確立は重要な課題となります。過去に当研究室では、腎臓特異的に発現する非硫酸化型HNK-1糖鎖が老化に伴い増加することを明らかにしました。老化に伴い腎機能が低下することを想定すると、非硫酸化型HNK-1糖鎖は腎機能と相関する糖鎖であることが考えられました。このことを踏まえて現在当研究室では、非硫酸化型HNK-1糖鎖が腎機能に及ぼす影響について、生化学的な解析を中心に調べています。また、尿中にも非硫酸化型HNK-1糖鎖を有するタンパク質が排泄されることがわかっており、この糖鎖を利用した腎機能マーカーとしての展開も目指しています。

② HNK-1生合成酵素群の機能的解析
神経系特異的に発現するHNK-1糖鎖は末端に硫酸化グルクロン酸を有する3糖構造から成り、そのグルクロン酸転移酵素として主にGlcAT-Pが働きます。GlcAT-PはN末端側13アミノ酸の有無により、short GlcAT-Pとlong GlcAT-Pの2つのアイソフォームが存在します。過去に当研究室では、short GlcAT-Pはゴルジ体によく局在するのに対し、long GlcAT-Pはゴルジ体以外に小胞体にも局在することを見出しました。一方でどのようにしてそのような局在の違いが生じるのか、具体的なメカニズムがわかっていません。そのメカニズムを経時的に明らかにするために、retention using selective hooks (RUSH)システムといった技術を導入しています。RUSHシステムとは、目的分子を小胞体内にhookし、ビオチンの添加でhookされた分子の輸送を開始することで、目的分子の輸送過程を経時的に追跡する手法となります。このRUSHシステムをshortとlongに導入し、経時的な局在差異のメカニズムを知るために、定量的な解析を目指しています。また様々な糖転移酵素間(たとえばGlcAT-Pと硫酸基転移酵素HNK-1ST)の生細胞内での相互作用能についても、このRUSHシステムを応用して解析を目指しています。

③NMDA型グルタミン酸受容体サブユニットGluN1はなぜ未成熟型糖鎖で維持されるか
NMDA型グルタミン酸受容体はイオン透過型チャネルであり、神経細胞シナプスのスパイン領域に集積し興奮性伝達を担う重要な分子です。この受容体に必須のGluN1サブユニットには複数のN型糖鎖付加部位が存在するものの、すべてのN型糖鎖が未成熟型糖鎖として維持されたまま神経細胞膜表面上に発現することが知られます。一般的な糖タンパク質は小胞体内で未成熟型糖鎖が付加された後、ゴルジ体でプロセシングを受けることで複合型糖鎖へと成熟していきます。すなわち、GluN1ではそのようなプロセシングを受けないまま膜表面に発現し、そこで未成熟型糖鎖を提示していることとなります。当研究室ではGluN1の未成熟型糖鎖維持機構や、未成熟型糖鎖の機能的意義について、解析を目指しています。

上記以外にも、糖鎖に関連した興味深い現象が見つかれば積極的にその解析を行っています。