研究内容

森瀬研究室では現在、以下の4つの研究課題を中心に研究を進めています。

① 腎臓内の非硫酸化型HNK-1糖鎖と腎機能との関連について
不可逆的な腎機能障害の進行は、慢性腎臓病に至ります。したがってその進行を抑制する分子機構の解明や、腎機能障害を早期に検出できるマーカーの確立は重要な課題となります。過去に当研究室では、腎臓特異的に発現する非硫酸化型HNK-1糖鎖が老化に伴い増加することを明らかにしました。老化に伴い腎機能が低下することを想定すると、非硫酸化型HNK-1糖鎖は腎機能と相関する糖鎖であることが考えられました。このことを踏まえて現在当研究室では、非硫酸化型HNK-1糖鎖が腎機能に及ぼす影響について、生化学的な解析を中心に調べています。また、尿中にも非硫酸化型HNK-1糖鎖を有するタンパク質が排泄されることがわかっており、この糖鎖を利用した腎機能マーカーとしての展開も目指しています。

② HNK-1生合成酵素群の機能的解析
神経系特異的に発現するHNK-1糖鎖は末端に硫酸化グルクロン酸を有する3糖構造から成り、そのグルクロン酸転移酵素として主にGlcAT-Pが働きます。GlcAT-PはN末端側13アミノ酸の有無により、short GlcAT-Pとlong GlcAT-Pの2つのアイソフォームが存在します。過去に当研究室では、short GlcAT-Pはゴルジ体によく局在するのに対し、long GlcAT-Pはゴルジ体以外に小胞体にも局在することを見出しました。一方でどのようにしてそのような局在の違いが生じるのか、具体的なメカニズムがわかっていません。そのメカニズムを経時的に明らかにするために、retention using selective hooks (RUSH)システムといった技術を導入しています。RUSHシステムとは、目的分子を小胞体内にhookし、ビオチンの添加でhookされた分子の輸送を開始することで、目的分子の輸送過程を経時的に追跡する手法となります。このRUSHシステムをshortとlongに導入し、経時的な局在差異のメカニズムを知るために定量的な解析を目指しています。

③糖鎖改変技術の開拓1
一般的な糖タンパク質は小胞体内で未成熟型糖鎖が付加された後、ゴルジ体でプロセシングを受けることで複合型糖鎖へと成熟していきます。一方我々は特定のアミノ酸配列を目的タンパク質に導入することで、プロセシングを受けずに未成熟型糖鎖のまま細胞膜へ移行することを発見しました。未成熟型糖鎖を持つタンパク質は生理的条件でも存在しますが、どのような機能を持ち、どのように未成熟型糖鎖のまま維持されるか、その役割や糖鎖制御機構がほとんど明らかとなっていません。当研究室は特定のアミノ酸配列を用いて、あらゆるら分子上の糖鎖を自在に未成熟型糖鎖に変えることで、未成熟型糖鎖の本来の役割の解明を目指します。

④糖鎖改変技術の開拓2
糖鎖生物学の問題点として、細胞内で糖鎖を自在に書き換えることが難しい点が挙げられます。なぜならDNAやアミノ酸とは異なり、糖鎖には鋳型がなく、糖転移酵素の基質特異性のみで組み上げられるからです。しかしながら1つ1つの糖鎖は機能的であり、その破綻は様々な疾患につながります。その理解を進めるうえで糖鎖機能を解析することが求められますが、そのためには糖鎖を自在に操る技術が必要となります。ただし糖転移酵素に対する一般的な遺伝子操作では、目的タンパク質以外の分子上の糖鎖構造にも影響を与えてしまいます。そこで我々は重鎖単一抗体(nanobody)を駆使して、標的分子のみに目的糖鎖を付加させる技術の開拓を行っています。これにより細胞内の糖鎖を自在に書き換えることができるようなれば、糖鎖研究が劇的に進展することが期待されます。

上記以外にも、糖鎖に関連した興味深い現象が見つかれば積極的にその解析を行っています。